感想しか書いてない

本・映画・その他見たもの読んだもののアウトプット用のブログです。ほぼ感想だけを載せる予定

【感想】大木康著 中国明末のメディア革命 ー庶民が本を読むー

X上でこの本を見つけて気になったので読む事にした。

この本によると明末の嘉靖元年(1522年)から書籍の発行が膨大になったそうである。それがどれほどすごい事かというと、同時期に欧州で発行されたドン・キホーテの初版本は申請書を提出し手袋をはめて読まなくてはいけないが、明末の本は大学図書館の本棚から素手で取り出して読めるらしい(流石に鍵のかかった特別な部屋には入っているようだが)。そういう事もあり、現在の学者が漢籍を読む際の本のほとんどが明末以降のものになるようだ。

そして、なぜそうなったかの理由としては上級階層だけでなく、科挙受験生や中規模商人といった中間層に本を読む余裕ができたかららしい。

ただ、本著ではなぜそうなったかは書いておらず、ひたすら当時発行された本がどのような内容のものかという事しか書いてなかったので、拍子抜けであった。なので個人的に推測してみると、農業の生産性向上と貨幣経済の浸透で経済が発達し、それが中間層の余裕として書籍の発行に表れたのではないだろうか。また、南宋時代に合格率が0.01%だったものが明清時代には0.004%にまで下がったようなので、おそらく科挙受験生もかなり増えたと思われる。それにより小説の読者層が形成されるくらいに識字率が上がったのではないだろうか。(そもそも漢字自体が識字率向上に難のある文字なのでよくそこまでいけたなと思う)

なんにしても個人的にはえらく浅い感じの本だなと思ってしまった。

個人的に気になった話で、当時の高級官僚が小作人の美しい嫁を強奪してそれが小作人の主人を通じて巡り巡って書籍や貼り紙に書かれて大炎上した話があり、メディアと炎上は本当に相性が良かったのだなと感じた。

それからどうでもいいが、当時の本の印刷面である版式が現代日本でも見かける原稿用紙の原型であると知ったのは意外だった。あと、明朝体という字体が印刷する際に彫師が彫りやすくするために出来たものとは知らなかった。しかも縦方向にだけ彫る職人と横方向にだけ彫る職人とで分けて生産性を上げていたらしい。そうなるとぐねぐねとまがりくねった草書体の仮名文字を彫っていた日本の彫師はかなり大変だったのではなかろうか。