感想しか書いてない

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【感想】ニコラ・ライハニ著 「協力」の生命全史 進化と淘汰がもたらした集団の力学

半年くらい前に、X上でいつものように弱者男性がどうのこうの話題になっている時に東洋経済のこの記事が目に入り、読める機会が出来たので読んで見た。

この記事によると「狩猟採集社会では殆どの男性に繁殖の機会があった」らしく、Xでたまに見る「アルファオスがメスを独占するのは自然の成り行き」というのは少なくとも人類では間違っているという事になりそうである。

この本は、人類だけでなく様々な生物の協力と競争に関して書かれており、単純に群れを作る生物はみんな仲良く秩序を持って生きているという事ではなく、下位の個体が機会を見て上位の個体を倒そうとする事はよくあるようで、群れを作る生物は個として利益を上げようとする力と集団の秩序を維持しようとする力が常に綱引きをしている状態にあるらしい。

それは生き物だけではなく体の細胞上にもあるようで、それの極端な例ががん細胞になる(しかもがん細胞は体中のがん細胞と連絡をとって協力もするらしい)

そもそも人類というのは他の類人猿と比べても圧倒的に協力する事が多く、筆者はこれを「草原という密林と比べて姿を隠せない環境で天敵から身を護るために身に着けた能力では」と述べている。それ故に人類は強力する猿とも言えるだろう。なので今の家族形態である「核家族」というのは筆者曰く駄目な形態らしい。(子育ての話を聞くと本当にその通りだと思う)

この本では狩猟採集社会の話がよく書かれており、この社会では「気前よくふるまう」「傲慢な態度をしてはいけない」という事が大事で、これらを守らないといくら優秀な人物でも群れを追い出されてしまうそうだ。困った時の保険や群れの秩序を維持するために必要な事なのだろう。しかし、これだけ平等だとルソーやポルポトが原始社会に理想を見るのも無理はない。あと、己がやった事を自慢するというのは今の人類でも共通で嫌われており、あのインドでもその傾向があるらしい(本で紹介されていた事例は、ある宗教的苦行で、これをやりとげた人は絶対にその事を自慢しないそうだ)

実際に勝者総どりが始まったのは文明が起きだしてからで、狩猟採集社会では3人のうち2人の男性が子孫を残せなかったが、農耕が定着した完新世半ばでは16人中15人も子孫を残せなかったらしい。農耕は人類最大の詐欺と最近言われているが、このような話を聞くと確かにそう思いたくなる。

パラノイアというものがあるが、治安の悪いような脅威の高い地域の人はパラノイアが高まる傾向があるらしく、またサイコシスの傾向も強い。治安の悪い地域におかしい人が多いように見えるのもその影響なのだろうか。(本の中ではあくまでそう観測されているという事だけ書かれており、治安が悪いとそうなると断言は避けていた)。

この本の中ではパラノイアといったものは恐らく、危機を回避するために備わった人間の本能だと述べられており、社会的ストレスが高まるほどその傾向が上がるとも書かれていた。

あと、「協力」というものが無条件に良いものとは限らず、汚職からジェノサイドといった「協力」の負の面も挙げられていた。当たり前だが身内だけの「協力」はやりやすいが、社会や地球環境といった大きな囲いをもってくると人類は中々協力しづらいようだ。(そもそも身内の協力と違って、それらの協力は利益を受け取れるかどうかもわからないから。また保守は身内の利益を優先し、リベラルは社会や地球全体の利益を求める傾向にあるらしい。)

筆者は協力によって人類はこれだけ発展したが、協力によって滅ぶ可能性は十分にあるとも述べていた。何にしても人類は石器時代の150人程度の群れでやりくりする脳みそしかないのにここまで来てしまった結果、今のような様々な問題が起きているのだろう。