感想しか書いてない

本・映画・その他見たもの読んだもののアウトプット用のブログです。ほぼ感想だけを載せる予定

学問を学ぶ場というより人脈と政治力をつける場という感じだった【”闘争と平和”の混沌 カイロ大学(感想)】

 自分がこの本を読んだきっかけは以下のツイートを見かけて気になったからである。

 「ハンター試験への理解が深まる」とはなんぞ?と思わざるを得なかった。

 この本は著者の浅川芳裕氏が、高校の時にニュースで湾岸戦争を見た事がきっかけで中東に興味を持ちカイロ大学に留学した体験を元に書かれた本である。(しかし、著者は山口という地方で外交官を志し、かつ高校卒業後は米留学を考えていたのだから実家がかなり裕福なんだろうか。もしくは当時はそういう事がまだやりやすかったのか)

 なんにしても、最初にカイロの猥雑さと魔都について色々書かれているのだが、国民も含めてインド社会の亜種のように感じた。そもそも歴史のある大陸国家は大体そんなものなんだろうか。

 カイロ大学自体がイスラム原理主義から西洋的なリベラル的なものから様々な思想のごった煮から生まれており、まさに最初から混沌と呼ばれるに相応しい大学だった。

 この大学は構内に秘密警察の部署があったりと政府の圧力が強いもののそれでも地下では思想輸出みたいなものが強く、現に世界で名をはせるイスラムテロリストもこの大学出身者が多い。

 そもそも、この大学のレベル自体も世界的に見ればそれほど高くなく、純粋に学問をしたい場合は全く勧められない。ただ、それでも全中東から留学生が集まる大学なのと、日本社会では経験しない交渉が日常茶飯事のエジプト社会なだけあって、人脈作りと政治力を鍛えるにはもってこいの場所だと感じた。

 話はずれるが、あの小池都知事もこのカイロ大学を首席で卒業という事になっていて、またそれについての疑惑もあるが、この本を読めばこの大学はそんな些末な事を求める場所ではないなと思ってしまう。エジプト社会も演技力とはったりをかます必要があるので、卒業したしてないみたいな事は小さな事なのだろう。同じ卒業生のサダム・フセインも卒業試験に試験官を前にして拳銃を机の上に置いて、それで卒業資格をとったというのだから。

 しかし、著者は「自分が中東問題に関わっていこう」みたいなある種のロマンをこんな若いうちからもっていたのは凄いなと感じる。また、それがエジプト軍人と仲のいい日本人女性に「エジプトの諜報機関は優秀だから日本に逃げても無駄よ」と諭されて心が折れたというのもまた凄い話だった。

 一読の価値はあり。読んで損はない本です。